「表現の不自由展・その後」展中止に反対する声明


愛知大学関係者の皆さま

あいちトリエンナーレ2019における企画展「表現の不自由展・その後」が中止に追い込まれた事態に対する声明を出すことにしました。この声明に賛同していただける場合に は、下の「賛同署名フォーム」より賛同署名をお願いいたします。

8月20日(火)正午現在の賛同者名・賛同者数を入れて、声明文を河村・名古屋市長、大村・愛知県知事、あいちトリエンナーレ事務局(津田芸術監督)および、菅官房長官に送りました。 なお、菅官房長官に送ることは予め断っていませんでしたので、菅官房長官に送った声明文には賛同者名は入れず、人数のみを入れました。 


 緊急!!(2020年6月) 「表現の不自由展・その後」をつなげる愛知の会による「「表現の不自由展・その後」を理由とした大村知事へのリコール運動に反対する声明」

 賛同者から寄せられたメッセージ

 関連情報

 愛知大学は、設立趣意書に、「旧来の軍国主義的、侵略主義的などの諸傾向を一度に投げ捨て、社会的全般の全範囲にわたって民主主義を実現し、自らを文化、道義、平和の新国家として再建することによって世界の一員として、世界文化と平和に貢献できるようなものとすることでなければならない」としています。


 愛知大学の関係者にとって、国際的な芸術祭において開かれ、現代社会を深く広く見つめ直し別の光を当てる現代アートの空間は、このような趣旨を持つ研究・教育機関にとってとても貴重なものであり、地元で確保される文化の貴重なリソースとして、あいちトリエンナーレは大切なイベントです。


 あいちトリエンナーレが開かれている名古屋市の市街地に本部があり、さらに前回あいちトリエンナーレの会場が開かれた豊橋がもともと大学生誕の地で現在も校舎をもつ愛知大学の関係者として、あいちトリエンナーレの充実を私たちは心から願います。


 あいちトリエンナーレは最大級の規模を持ち、国際的にも注目される芸術祭であり、2013年には「揺れる大地―われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活」をテーマに東日本大震災後の日本で「アートに出来ることは何か」を問いかけ、2016年には「虹のキャラヴァンサライ 創造する人間の旅」で、流動化する世界とその中で生きる人々について問いかけてきました。他の国内芸術祭にも類を見ない、現代社会に対して真摯に向き合ったテーマが設定され、その下で多くの国際アーティストの参加による、充実したプログラムが行われてきました。本年度のコンセプトは「情の時代」であり「近代以降、どこまでも開かれ、つながっていくことへの渇望がグローバリズムを発展させた。しかしその一方で、ひたすらに閉じて安心したいという反動が今日のナショナリズムの高まりを支えている。両者の衝突が分断を決定的なものにし、格差は拡大し続ける」とし、「アートはこの世界に存在するありとあらゆるものを取り上げることができる。数が大きいものが勝つ合理的意思決定の世界からわれわれを解放し、グレーでモザイク様の社会を、シロとクロに単純化する思考を嫌う」として、津田大介芸術監督は、アーティストの男女平等を掲げるとともに、さまざまな表現の空間を開こうとしました。


 ところが、そのような可能性のある、今回の芸術祭の重要な展示「表現の不自由展・その後」について、芸術の持つ社会にとって重要な意味がまったく理解されないまま、権力による芸術への介入が行われたことに、私たちは大きな憤りを感じます。


 今回の「表現の不自由展・その後」をめぐって、この企画展を視察し「どう考えても日本人の、国民の心を踏みにじるもの。いかんと思う」とコメントし作品の展示を即刻中止することを大村知事に求めた河村名古屋市長の行為、また同日「事実関係を精査した上で適切に対応したい」と述べて、「補助金を交付するかどうか慎重に判断する」とする菅義偉官房長官の発言に見られるような、政治家や公職者がアートのもつ主張を尺度として公金支出の是非や展示の中止に言及することは、憲法第21条で規定する、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」に抵触するものです。それは同21条で禁止している、公権力者による圧力、すなわち事実上の「検閲」です。また、わが国も1979年に批准した自由権規約(国際連合 市民的及び政治的権利に関する国際規約)は第19条で表現の自由の保障を締約国に課しており、また、その条項に関する国連自由権規約委員会の一般的意見34(2011年)は「締約国は、表現の自由についての権利を行使する人々を封じることを目的とした攻撃に対し有効な措置を講じなければならない」と述べています。河村市長や菅官房長官が権力を発動して表現の自由を侵害しようとした行為は、表現の自由の権利を保障するという、国際的にも公人に課せられた義務に反するうえに、テロ予告や脅迫等の、表現の自由の「権利を行使する人々を封じることを目的とした攻撃」を助長した可能性さえ持ち、その責任はきわめて重く、河村名古屋市長、菅官房長官に対し、強く抗議します。


 文化芸術基本法の前文には、「文化芸術は,人々の創造性をはぐくみ,その表現力を高めるとともに,人々の心のつながりや相互に理解し尊重し合う土壌を提供し,多様性を受け入れることができる心豊かな社会を形成するものであり,世界の平和に寄与するものである」とあり、文化芸術振興基本法からの2019年の変更においては、「我が国の文化芸術の振興を図るためには、文化芸術の礎たる表現の自由の重要性を深く認識し」がわざわざ付け加えられているのです。


 芸術が現実に対してもつ距離やそのもとでの自由な表現が、人々を出会わせ、人々の感情に新たな視点を与え、国際的な土俵のもとで豊かな人間性を作り上げていくプロセスを踏みにじり、文化や芸術というものをまったく理解しないのみならず、文化や芸術を享受しうる人権についてもまったく配慮がない彼らの政治家としての資質は問われ、その行為は批判されるべきものです。文化や芸術の豊かな空間が保障されてこそ、より豊かな未来を開く民主主義がそのもとで醸成されていくのであり、地元で研究・教育を進める私たちは、この文化の空間や表現の破壊に対し、心より怒りを感じます。


 日本政府には、同展への攻撃に対して、関係者の安全を保障し、脅迫行為については捜査を行うなど、表現の自由を守るための具体的かつ「有効な措置を講じ」る責任があります。


 わずか三日で失われた表現の場や、アートを通じて人々が享受できた経験や価値、それを通じて行われるはずだった社会的な対話等の機会が回復され人々に提供されるよう、あいちトリエンナーレ2019の主催者や関係者に強く要望します。


以 上


  2019年8月11日

 愛知大学関係者有志

   連絡先:tagawa200アットyahoo.co.jp(田川)(「アット」を「@」に変えてください)


呼びかけ人:有澤健治(名誉教授) 加々美光行(名誉教授) 交野正芳(名誉教授) 木戸泰幸(卒業生) 小林 武(元法科大学院教授)  鈴木規夫(国際コミュニケーション学部教授) 田川光照(名誉教授) 松崎成子(卒業生)

賛同者:阿江善春 朝倉一樹  板橋奈津子 伊藤英樹 稲垣 昭 今井信彦 岩松豊明 宇佐美孝二 大林文敏 岡田忠昭 垣内暎恵 垣内伸彦 樫村愛子 片倉和人 河田賢二 熊谷政人 近藤暁夫 櫻井千栄 佐々木正道 杉田可縫 武川眞固 玉置光司 佃隆一郎  土屋 葉  中尾充良 中沢伸彦 長島史織 中島 隆 永野敏夫 長峯信彦 中村修一 長谷部勝也 馬場 毅 松浦満夫 三浦好行 宮入興一 山田晶子 吉野さつき 若杉登志美 他16名 (8月27日8時現在)